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February 08, 2008

新国立劇場「サロメ」

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オペラにはまったのは、関西の知人がベストチョイスでビデオやDVDを貸してくださったことがきっかけだった。当時ヨーロッパ旅行に3年連続で行くことがかない、「せっかくヨーロッパへ行くなら、本場でオペラでも・・」という軽い気持ちがすっかりはまった。
彼女のお薦めがとてもよかったし、ヨーロッパの劇場が素晴しかったなど様々な幸運が重なった故だと思う。

リヒャルトシュトラウス作のオペラ「サロメ」も恐らくMさんのチョイスで、テレサ・ストラータス主演のビデオを観た。美しく小悪魔的な魅力でこちらを惑わす。義父のヘロデではなくても誘惑されてしまうだろう。このビデオが大変よく、また官能的でさえあるリヒャルトシュトラウスの楽曲にも飲み込まれるようにはまった。
関連作品もいろいろ試した。オスカー・ワイルドの原作(戯曲)はもちろん、Mさんお薦めの塩野七海氏の「サロメの乳母の話」、コミックでは牧美也子の「サロメ」、連れ合いの勧めで星野之宣「妖女伝説」。映像では「オスカー・ワイルド」、ケン・ラッセルの「サロメ」、フラメンコではアイーダ・ゴメスの「サロメ」、演劇はスティーブン・バーコフの「サロメ」。絵画ではモロー・・など、私がちょっと手を出しただけでもずいぶんとある。枚挙にいとまがない。
退廃的・官能的とも言える19世紀末芸術に何故これほどまでに惹かれるのだろうか。一言付け加えるならば、「サロメ」はこれほどまでに悪女であったかどうかは定かではないようである。後世の脚色の方が多いのだとか。

「生涯で一度でいいから、ぜひ観たい」と願ってはいたが、今春密かに計画をしていたヨーロッパ旅行が延期になり何かオペラでも・・とネットで調べていたら、新国立劇場でのサロメ公演! 安めの席はほぼ埋まっていて、その時点で安めの席で残っていたのは水曜日。教会暦では「灰の水曜日」と言って、受難節(レント)に入る日だった。受難節にサロメ!?と少々気がひけたが、このタイミングを延ばす手はなかったので予約をした。

何度か映像では観ていたし、授業でも紹介したりするので特に予習も復習もしていかなかった。拍手をする間もないままに、突然楽曲が始まった。いきなり作品に引きずり込まれたのだが、この作品は休憩なしの1幕で1時間40分。最後まで息をこらして鑑賞した。

サロメは少し経ってから登場する。義父のヘロデ王の誕生日の宴席から逃れて。義父の自分を見つめるまなざしの怪しさに辟易としている。サロメ役のナターリア・ウシャコワの演奏は最初はそれほど素晴しくはなかった。それなりにはよいのだけれど、思ったほどではない。しかしこの歌手は案外すごいのかもしれない。その時によくない調子をどんどん合わせて、結果的に最後のモノローグとも言える大事なシーンでは、もっともよく声を鳴らし堂々としたサロメを演じていた。

今回何と言っても素晴しかったのは、ヨハナーン(バプテスマのヨハネ)である! ジョン・ヴェーグナーというバリトン。セットは前方真ん中に大きな井戸のような穴があって、ヨハナーンはそこに幽閉されている。最初は穴の中から声がするのだが、穴の中の声でさえ麗しい美声で全身の登場が非常に待ち遠しかった。
そして、サロメに懇願されて牢から出されるヨハナーン。見た目も大柄で見栄えがよく、これ以上はないかも!と思えるほどヨハナーンにふさわしい美声だった。洗礼者ヨハネというよりは、イエスのような気高さもあった? ワーグナー作品などもぴったりだろう。

全体的に男声の安定感とよさが目立った。ヘロデ役のヴォルフガング・シュミットもまるでお手本のようなヘロデだったし、ヘロディアスは以前から個人的に大好きな小山由美さん。彼女もまたワーグナー歌いで定評がある。ヘロディアスの小姓役の山下牧子さんは細身で小柄、声もインパクトには少し欠けた。

初めて生で「サロメ」を鑑賞して、気付かされたことがいくつかあった。それは音域がとても広く、高音から低音まで鳴らす難しさ。ミュージカルで言えば、アンドリュー・ロイド・ウェバー作品のような。「7つのヴェールの踊り」でダンスをも求められるこの役は非常に難易度が高いと思われるが、ナターリア・ウシャコワはどこかセーブしながら踊っていた。このあたりが映画版や映像版のオペラと違うところだろう。最初から最後までのバランスを計算して、クライマックスへ向けてエネルギーも保つ。本当に大変なことだ。

調子がそれほどよくはないように思えても、最後までにはぴったりと持ち直す。そんな歌手の技量に触れられて感謝な灰の水曜日であった。
「生涯に一度でいいから・・」と願って観た作品だったのに、終わる頃にはまた別の演出や演奏を聴きたくなってくる。まったく芸術への欲求というのは尽きないものだ。

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